異形。それはこの街の闇に巣食うヒトならぬ存在の呼称。
いや、この街だけではない。ヒトが存在するところであれば、彼らはどんなに儚い形であっても存在するのだ。
 彼らは闇の間に生まれ、闇の中に生きる。闇の中こそが彼らの揺籃であり、世界であり、王国なのだ。

  パタン、と手にした本を閉じる。低年層向けのその本は、今まで何度も開かれたのか、少々黄ばみ、撚れている。
イスターシャは安楽椅子から立ち上がり、閉じた本を本棚にしまうと今度は文机に向かい、黒い冊子に何事か書き込み始めた。

『前略 第二異形処理班総括代理殿

  予てよりご下命の件、無事遂行いたしました。 つきましては関係者各位に協力を仰ぎ、事後処理に奔走いたします。
終了次第こちらから再び報告を行いますのでそれまで別件は他の黒葬に御命じいただくようお願いいたします。
草々  
第二異形処理班所属 イスターシャ・クロスハイト』


 書き終わったのかペンを動かす手を止めると、イスターシャは小さく「送信」と呟いた。すると、書かれていた文章がみるみるうちに冊子の中に沈みこむように消えていった。
 どうやらこれでいいらしい。イスターシャは黒い冊子を閉じ、机の引き出しに仕舞った。
「さて」
傍らに立て掛けてあった装飾剣を腰に差し、黒葬を羽織って彼女は自室を後にした。

『イスターシャ・クロスハイト。組織内での呼称は『月の十字架(ムーンクロス)』。18歳、独身。第二系黒葬保持者。黒葬の正式名称『硝子の真理(グラス・ヴァールハイト)』、能力は絶対防衛(但し、計測者の言によるとまだ幾つかの能力を隠し持っている可能性もあるとのこと)。我々が連中を相手取るときの障碍となることは確実であるため早急に処理すべきである。

 追記。今し方標的を発見した同志が返り討ちにあったとの報告が入った。貴殿の部隊の雑兵のようだ。事実関係を明らかにした上での報告をお願いしたい。

黒翼戦師団副師団長 ベルク・ヴォルド』 





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―あとがき―
はい、第二話です。また変なところで切ってしまいました。
正直、後の展開なんてこれっぽっちも考えておりません。
主人公の設定もまるっきし考えてないもので。
…この後更新できるんだろうか……。
またお会いしましょう。