小柄な影はウィジュエスト……「眠らない街」との異名を持つこの街を闊歩する異形を狩ることを生業とする。
影は狩人なのだ。
その身は「黒葬」……異形を葬る者たちの纏う黒衣に象られ、身体の横を擦り抜ける風にはためいている。
その闇よりも深く長い漆黒の髪も。
影は今夜の狩を終えて帰路につくところだった。無防備なその背を悪寒がぞくりと走りぬける。
咄嗟に身を屈めると頭上を白銀の刃が通り過ぎていった。
小さく舌打ちし影は躊躇することなく足元の空隙へ身を躍らせる。
高いビルとビルの隙間を通る風に流されながらも影は自分を追ってきた異形と対峙していた。
異形は幾つもの白銀の輝きを生み出しては影に向かって放ち、対する影は、その身に纏う黒葬で輝きを片っ端から弾き返す。
弾かれた輝きは周りのビルの壁面に銀色の花を咲かせ、影を掠め、ややあってから実体を失って消えた。
一向に埒のあかない展開。
そんな展開に焦れたのか、異形は一抱えほどもあるであろう輝きを生み出した。
光の玉の内部から数え切れないほどの刃が放たれる。
ただでさえ狭い空間、逃げ場などありはしない。
だが、影は。
その絶体絶命ともいえる状況の中、笑っていた。僅かな月光の中、確かにその口を嘲笑の形に歪めていた。
光が、迫る。影は笑みの形を崩さぬまま、小声で呟いた。
「雑魚はお休みの時間だ…『滅睡蓮』」
瞬間、影に迫っていた光も、光の玉を掲げた異形も、不意に現れた幻の蓮の花に包まれて、ゆっくりと消えていった。