「全く、酷い目に遭った」

憮然としながら男は呟く。

「だからゴメンって」

条件反射なんだって。おまえいつも抱きついてくるから。

「いい加減機嫌直せよ、いい年こいた男が」

寧ろお前の方が機嫌直せと言いたくなるような声でローディアがぼやく。

ローディアはこの男が嫌いだ。

事ある毎に自分の持ち主であるイスターシャに抱きついてくるからだ。 自分だって抱きつきたいのに…!

  ローディアの外見は装飾剣。喋るソードではあるが人間の形をしていないので抱きつくことが出来ない。

つまり、ローディアの、男に対する感情は、多分に嫉妬を含んでいるということになる。

「…あのよ、ローディア」

「なんだ」

「その、なんだ。…いい加減、オレのこと名前で呼んじゃくれねぇか。ちゃんとファルタっていうイカした名前があるんだからよ」

「断る。」

「おいおい、連れねぇなぁ、ローディア。そんなんじゃ、イルに愛想尽かされちまうぞ?」

苦笑いを浮かべながらファルタと名乗った男は首を左右に振った。

それがまたローディアの気に障ったらしい。酷くドスの効いた声で、「二度とそんな口叩けないようにしてやろうか…?」となんとも物騒な科白を吐いた。

「…ローディア」

溜息混じりにイスターシャが制止する。このままではこの屋敷が破壊されかねない。

それは即ち、今まで苦労して集めた本がおじゃんになってしまうということだ。

別にローディアが折られようが砕けようが、ファルタが焦げようが氷漬けになろうがそんなことイスターシャの知ったことではないが、

貴重な本が駄目になってしまう事態は流石に避けたい。

イスターシャは二人(正確には一人と一振り)が顔を合わせる度に本棚に結界を張って難を逃れていたが、今回は結界を張る暇がなかったため、仕方なく仲裁に入っているのだ。

「……はぁ」

再度溜息をつく。溜息をつかねばやっていられないというのが本音であるが、溜息の元凶は素晴らしくその理由を誤解していてくれた。

「何だ、イル。そんな溜息ついて。…さては、オレのこの色男っぷりに惚れちまったか?」

「んなワケあるかド阿呆。著しく真人間性疑うような言動をとるな私まで同類と思われる。つかとっとと帰れ今すぐ帰れ尻尾巻いて帰れ」

しょうがねぇな〜、と肩を抱き寄せるファルタに流れるような暴言を投げつけてイスターシャはファルタの腹に捻りの効いたブローをお見舞いした。

哀れファルタは白目を剥いて蹲っている。

イスターシャはというとファルタの屍を踏み越えてローディアと対峙していた。

「お前もどういうつもりだ、ローディア。以前にも言ったがあんなものを相手にするな。己の底が知れると言ったのはお前のほうだぞ」

「…すまない。だが」

「お前の言いたいことも分からないではないがな、アレは相手にするだけ無駄だと思うぞ、本当に」

ちらりと未だ蹲り、何故か恍惚の表情を浮かべている男に目を遣ったイスターシャに

「壁でも相手にしていた方がマシというものだな」

納得した声音でローディアが相槌を打つと、

「そう。分かっているなら何故相手にする?」

にっこりと。空恐ろしい笑みを浮かべたイスターシャにがっしと掴まれ、そのまま掴んだ手に力を込められる。

「痛い痛い痛い痛い」

女とはいえ戦士であるイスターシャの握力はそこらの男共では比較にならぬほど強い。

本気を出した彼女が素手で巨岩を爆砕する様を知っているローディアは寒心を覚えた。

(折られる…………!!)

ああ、無情。犬に埋められそうになったところを助けられ、自分感激です一生ついていきますと生涯を誓った相手の役にも立たぬままその手で折られて終わるのか私は…。

「私がいつ貴様と生涯を誓ったかこのボケ」

ぎりぎりぎり。


みしっ。


(………!!)

罅が入ったような音がした。ああ、終わりか。

ローディアが死を覚悟した瞬間、イスターシャの怒声が響いた。

「ファルタ!この大馬鹿者!何私の机を勝手に漁って……ああ!勝手に見るんじゃない…ローディア!」

緊迫した主の声にローディアはハッと我に返る。

「凍牙連衝!」

イスターシャの声が響く。

同時にローディアの能力が引き出され、イスターシャの斬撃とともに、氷の衝撃波を放つ。

それをもろに喰らったファルタ。当然のことながら彼は氷のオブジェと化した。








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―あとがき―
どんどんワケが分からなくなっていくこの話。
この後どうしよう。
全く考えていません。設定すら出来上がっていないこの体たらく。
次回は気楽に待っていただけるとありがたいです。